私が、この「吉田富三記念館」を訪れるたびに思う事は、この小さな田舎町に、このような素晴らしい建物と、中身の詰まった展示が存在することに感謝し、もっといろいろな人達にここを訪れてほしいということです。
では、車を駐車場に停めて記念館に向かいます。
ツツジの花のスロープを進んで行き
記念館に入る前に、前庭にある「白ネズミの碑」に手を合わせます。この碑は、博士が研究実験のために犠牲にしてきた白ネズミに対する思いに触れることができます。
実はこの碑は、東京の本駒込にある吉祥寺というお寺にある、博士のお墓の横にあるもので、自分たちが使用した実験動物たちの慰霊碑を立てることが、生前の博士の希望であったため、博士が亡くなられた後、ご遺族やお弟子さんたちによって建てられたという事です。記念館にあるのは、二つ目の「白ネズミの碑」でしょうか。
シロネズミの碑
アゾ色素肝癌、吉田肉腫、腹水肝癌などの研究に手をかけてその命を絶ちたるシロネズミの数知れず、不有会員はみな心の奥にシロネズミのあの赤い眼の色を抱く。モルモット、ウサギ、ハツカネズミそのほか鳥の類まで手にかけたる命への思いは同じ、ふと現れてまた消え行きたるこれら物言わぬ生類の幻の命も命に変わりあるべしとは思へず、あれは生ある者の命よと念じて此碑を建つ
昭和四十八年秋 不有會 代表
古希 吉田富三 識す
入り口に向かってアプローチを進みます。
中に入ると、左が受付で、正面にスーツ姿の富三博士の等身大のパネル、右は喫茶室で無料でお茶が飲めます。
展示室に入ります。照明が素晴らしくとても見やすい感じです。右奥にはビデオシアターがあり、博士の偉大な功績や博士が愛した浅川町の風土をスクリーンで見ることができます。
癌に関する足跡をたどりながら順路を進むと、この記念館の私のお気に入りの展示ブースが出てきます。
それは、白衣の博士ではなくて、ダンヒルのパイプを愛し、ボルサリーノの帽子から鞄、カメラ、ネクタイそれから小物に至るまで、とってもダンディな紳士であったことがわかるこのブースです。
展示の最終ので、この将棋連盟からの段位認定の免状が出てきます。原田泰夫、大山康晴、木村義雄、升田幸三が連記してあるこの免状は、子供のころ将棋に熱中していた私には信じられない、当時の人気棋士と重鎮の自筆の署名です。
特に、大山康晴は私の記憶に残っていて、升田幸三との闘争から、中原誠らの次世代へと変わっていく時に、すごい寂しさを覚えました。羽生善治から藤井聡太へ変わっていっている今も、その時と同じ寂しさを感じてしまいます。
展示室のお終いには、優れた癌研究者の功績を表彰した「吉田富三賞」を受賞した方々の額が並び、次に、青少年の科学教育進展に寄与する目的の、「吉田富三子ども科学賞」を受賞した子供たちの名前が並んでいます。
出口近くに、浅川小学校の生徒が上演した「吉田富三ものがたり」の様子と、そのことに対してアメリカ大使キャロラインケネディのメッセージが展示してあります。
建物を出ると右側に、常陸宮殿下が、平成六年八月十九日に来館された際に植樹された木があります。
以上で、吉田富三記念館の紹介は終了です。今回は、吉田肉腫を発見するまでの癌研究のところは、写真の掲載をしていません。ぜひ、記念館を訪ねていただき、ご自身でご覧ください。
最後に、
六月二十九日土曜日午後二時から、吉田富三記念館の研修室に於て、「語り部による吉田富三の逸話」が開催されます。50名限定です。お早めにご予約ください。